かえる院長コラム

「かえる院長の、本当は怖くない、精神科」

みなさまこんにちは、かえるメンタルクリニック・かえる院長こと陶山です。

 地球です。日本の人工衛星「かぐや」から撮影した、地球の写真です。美しいですね。
 「非常に美しいなあ」と、私は思うんですが、そうではなくて、「地球は青いんだなあ」とか、「あれ、半分しか見えねえなあ」とか、いろんなことを思う方がおられることでしょう。

 これは、リンゴには深い意味はないんですが、黒いものと白いもの、非常に白黒ハッキリして、美しいですね、と思う方もおられるでしょうし、あるいは、そうでないことを思う方もおられるかもしれませんね。世の中、白黒ハッキリした方がいい!という価値観をお持ちの方も多いかと思いますが、白黒ハッキリじゃなかったりすることも、とても多いと思うんですね。

 白と黒の間には、無限のグレーがあります。
 白と黒、ふたつに分けちゃっていいのかな?
 そんなことを、私はいつも考えています。
 白と黒の間には、無限のグレーの段階があります。後ほどそのお話をいたします。

 私は「精神科」のクリニックをやっていますが、似たような名前の診療科がたくさんあります。「精神科」「神経科」「心療内科」「神経内科」「脳神経外科」…。
 例えば、眠れないとか、気分が落ち込んでしまったとか、そんな時に、勇気を持ってお医者さんにかかりたいと思うんだけど、「果たしてワシはどこにいったらいいのか?」と、似通った名前に、迷われる方は結構多いのではないでしょうか。何がどう違うんでしょうか?一つ一つご説明いたします。

 まず、私の専門の「精神科」です。うつ病、そううつ病、統合失調症、神経症、適応障害、発達障害、認知症、などなど、あらゆる「こころ」の疾患を専門的に診る診療科です。
 次は「神経科」です。これは、かつて「精神科」の別称として使われておりましたが、「精神科」という言葉に抵抗のあった時代の名残だと思って頂ければ結構です。じゃあ今抵抗がないかといえばそんなこともないのですが、そのことはまた後ほど。  最近出てきているのが「心療内科」ですが、これ、なんとなく響きがいいですね。「心療内科」は、正式には、循環器科、胃腸科などと同様、内科の一部門です。胃潰瘍、糖尿病など、精神的ストレスの影響する内科疾患に対して、心理面へのアプローチを加味して診療する科です。ですので、心療内科の先生は原則として「内科医」であり、私達が受けてきたような精神科のトレーニングは受けていらっしゃらないということです。中には非常に努力されて、心療内科と精神科を両方マスターされた先生もおられますが。ただし、これは私達も努力していかなければならないことですが、今なお「精神科」という言葉への抵抗感は根強いものがあり、それを和らげる目的で、われわれ精神科医が開業している精神科のクリニックで、「心療内科」を標榜することが、現実には非常に多いのです。ですので、非常に分かりにくいと思います。もし、みなさまがおかかりになる場合は、「心療内科」と書いてある、すみっこに、ちっちゃく「精神科」と一緒に書いてあるところを選んで頂ければ、こころの問題を相談するには良いところではないかな、と思います。
 続いては「神経内科」です。こちらも内科の一部門、中枢神経、および末梢神経など「臓器としての神経の内科」であり、「こころ」の疾患は対象外となります。
 同じく、「脳神経外科」ですが、こちらも「神経内科」同様、「臓器としての」神経の疾患を、外科的に診療する科であり、同じく「こころ」の疾患は対象外となります。
 これで、少しは違いが分かって頂ければ嬉しいなと思います。

 ただし、認知症、てんかんなど、かつては精神科が専門だった分野を、近年では神経内科や脳神経外科の先生方に担っていただいたり、摂食障害など、からだの治療をしっかりやっていただかないといけない疾患も、心療内科にて積極的に診療に当たっていただいたりと、大変助かっております。

 では、「精神科」ってどんなところでしょう?
 精神科におかかりになったことのない患者さんからお話を伺う限り、「たくさん話を聞いて欲しい」「悩みを解決して欲しい」「自分の問題や性格にアドバイスが欲しい」「今の自分を変えたい」「薬はコワイから、できれば飲みたくない」などなどといったご希望やイメージを持っておられるようですが、実際の精神科って、こんな感じです。
 「話は最低限しか聞かない」「悩みは解決しない、自分で解決していただく」「アドバイスはしない、見守るのみ」「ひとは、こころは、変えられない」「病気を治すのに薬は不可欠」
 実際にはこのようなスタンスをとっております。これは私だけでなく、精神科医というものは一般にこのような考え方です。  精神科医「だって」医者なのです。医者の仕事は、病気を治すことです。魔法使いでもなければ占い師でもなく、間違っても自己啓発とかでは絶対ありません。病気を治すのは医学です。医学というものは科学であり、魔術でもなければ奇蹟を起こすということもありません。
 だいぶみなさまガッカリされたかと思いますが、「…とはいうものの、」というところから、私のスタイルについてお話したいと思います。

 「かえる院長」こと私の毎日の仕事ぶりです。
 一日に患者さんは平均して50人前後来られます。多いな、と思われる方も、少ないな、と思われる方もおられるかと思いますが、これは、完全予約制にすることにより、診療の質を保つよう努力しております。再来患者さんお一人の診療時間は、平均して10分程度、初診の患者さんの場合は、問診票の記載、心理士による予診、私の診察、そして必要に応じて検査等、合計2〜3時間かかります。これは大変患者さんは満足されるみたいで、来院時泣いておられた患者さんも、大体にっこり帰って頂けます。

 精神科というのは、非常に偏見とか誤解とか謎とか不思議に満ちたものかと思われますが、ここからは、「よくある精神科の『誤解』」についてお話したいと思います。

 白と黒の間には、無限のグレーがあります。
 白と黒、ふたつに分けちゃっていいのかな?
 そんなことを、私はいつも考えています。
 白と黒の間には、無限のグレーの段階があります。後ほどそのお話をいたします。

 よくある精神科の誤解その1。
 「精神科の薬を飲むと、やめられなくなる?ボケる?体に有害じゃないの?」と、多分8割以上の方は思っておられると思いますが、ズバリお答えしましょう。
 精神科の薬というものは、医師の処方通りに飲んでいれば、治った時には、やめられます。ただし、一部の疾患においては、治ってからも、長い年月飲み続ける必要がある薬もあります。それは、とりもなおさず「再発しない」ためです。こころの疾患の再発率は非常に高いのですが、服薬を続けることで、それを下げていくこと、つまり再発予防ができます。そういうことを理解して頂くのがなかなか難しく、われわれが大変努力をしている部分です。そして、薬によって「ボケる」、つまり認知症になるというのは、ありえないことですので、ご安心下さい。また、副作用についても、薬ですから作用と副作用があるのは当たり前なのですが、他の科の薬と差はありませんし、体に蓄積して、将来大変なことになると言うことも、全くありません。

 誤解その2。
 よく精神科というと、「薬漬け」というキーワードに結びつけられ、私も非常に頭が痛いところなのですが、「精神科にかかると、医者が儲けるために、『薬漬け』にされちゃうのでは?」というイメージのために、受診をためらわれる方も多いと思います。それに対して、ズバリお答えです。
 医者がどれだけたくさん薬を出しても、医者に利益が出るわけではありません。何故かというと、現在、ほぼ全てのクリニックでは、院外処方となっています。つまり、お薬は薬局で処方され、クリニックと薬局はまったく関係がないわけですので、医者は利益が出ないばかりか、医療費削減が声高に叫ばれている今の保険制度では、薬をたくさん出すと、診療報酬が下がり、かえって、医者が損をするようになっています。ですので今、精神科で10種類以上も薬を出されるようなことは、まずないと思います。さらに、この10年で、精神科薬物療法は、「多剤併用」から「単剤投与」、つまり、原則的に一種類の薬による治療へと、大きくトレンドシフトしております。

 誤解その3。
 「薬を使わない先生の方が『良い先生』?」というイメージを持っておられる方が多いようです。これは、シンプルにお答えします。  薬物療法の必要のない患者さんも中にはおられますが、大半の患者さんには、薬物療法は必要不可欠です。当院でも、9割方の患者さんは、何らかの薬剤を服用されております。それはなんで?と不思議に思われるかもしれませんが、「こころの病」イコール「脳の病気」だからです。
 ここはすごく大事なところなのですが、「『こころの病』だといっても、内臓やら、骨やらの病気と、何も変わりはない」ということなのです。
 ここは是非、覚えて頂けると嬉しいです。とてもいろいろな意味があります。

 精神科の治療について、簡単にご紹介致します。
 精神科治療の「両輪」と呼ばれるものが、「薬物療法」「精神療法」なのですが、実際にはそれだけでなく、環境調整、具体的には、家族との面接、家族療法、学校や会社、産業医との連携や交渉、福祉、介護サービスとの橋渡し、就労、社会復帰支援、経済、生活面の配慮など、非常に多岐にわたる仕事もしております。それらには膨大な書類作成が必要であり、深夜や休日にも時間を割くことが多々あります。

 では、「精神療法」とは何でしょう?
 「話を聞くこと」その一言に尽きるのです。
 「話を聞く」ということばの意味するところは、簡単なことのようですが、実際には、こころの中で、もやもやしているものを、「ことば」にしてもらうこと、そこで見せる表情を、口調を、身振り手振りを、着ている服を、お化粧や身繕いを、注意深く観察し、家庭や職場、学校の様子、生育歴、生活歴、時に雑談を交えながら、一言漏らさず受け止めてゆく…。
 患者さんが「ことばにする」だけで、それを、精神科医が「受け止める」だけで、癒やしになるのです。否定もしない、肯定もしない、アドバイスもしない。ただただ、うんうん、と、頷いているだけのようですが、しかしそこで精神科医は、五感を総動員して、「こころのことば」を受け止める。そういう作業が、精神療法の基本なのです。

 では、どこまで「健康」で、どこまで「病気」なのか?という疑問にお答えしたいと思います。
 精神科も医学なので、厳密な診断基準はあります。しかし、○×式だけに頼って診断を進めても、患者さんの本質は、全く見えません。精神科医というものは、経験と直感と言う能力がないと、やっていけない仕事なのです。
 では、患者さん自身が、「健康」と「病気」の区別をどうつければよいのか、どんな状態になったら精神科にかかれば良いのか、という問いに対しては、これは是非覚えて下さい。ズバリ、
 「あなたが生活に支障を来していますか?」
 あるいは、あなた自身は平気でも、
 「あなたのために、他の誰かが生活に支障を来していますか?」
 そこが、「治療の必要性」の、決定的な分岐点となります。

 では、今一番身近になっております、「うつ」についてお話したいと思います。
 「うつ」は、間違いなく近年確実に増加しています。
 ただし、「うつ」と「うつ病」は、まったくもって、イコールではありません。
 「うつ」というのはあくまでこころの状態像のひとつです。あらゆる精神疾患、のみならず、からだの病気、あるいは、心理的・社会的状況に反応して、簡単に言えば失恋したりしたときなどに、「うつ状態」は、誰にでも出現します。ですから、「うつ」の人が全員薬を飲まなければならないということでは、全くありません。
 では、「うつ」を、どのように見分けていけばいいのか、というのは、私達プロの仕事になってきます。「うつ」に対する正確なアセスメントが大切です。原因の有無、いつから始まり、期間、程度、繰り返しているのか、状況に応じて変化するのか、その他の心身の症状を伴っているのか、などなど、それらを総合的に判断することにより、診断も、治療方針も、全く変わってきます。

 では、あなたの大切なひとが「うつ」になったら、どうしましょうか?これも、覚えて頂けると嬉しいです。  まず、何より、ただただ「話を聞くこと」です。否定したり、反論したり、論評したり、誤魔化したり、逆に、事実でないことを肯定したり、むやみに励ましたりすることは、厳禁です。先程申し上げたとおり、ただただ、うんうん、と、聞くだけです。あなたが話を聞いてくれるだけで、そこに、安心感と信頼感が生まれるのです。
 そして、大切なひとのために、あなたに何ができるでしょうか?
 少し考えてみて下さい。部下や同僚に、無理をさせてなかったかな?奥さんや旦那さんに、何もかも任せきりじゃなかったかな?こどもを、親の思い通りにしたいと、躍起になってなかったかな?などなど。うつになった方を見たとき、それは、あなたご自身を振り返る、良いチャンスになるかもしれません。
 そして、危険なサインです。こうなったら、精神科に連れていって下さい。
 一番大切なのは、自殺の恐れを感じる場合。あるいは、出勤や登校、家事ができないなど、社会的機能が低下している場合。食べられない、眠れないなど、人間の本能の部分まで蝕まれている場合。さらに、本人は、大丈夫、もう少し頑張ってみる、と言っていても、周囲の人々が困ってしまっている場合。このような状況まで来ていたら、迷わず精神科を受診させてあげて下さい。

 最後に、「うつ」にならないための、小さな「こころのヒント」をお話したいと思います。少しでもお役に立てれば嬉しいです。
 もう一度、最初の写真をご覧下さい。

 まず、地球の写真ですね。この地球、左半分は、夜で真っ暗です。右半分は、昼で明るいですね。  「うつ」の時というのは、この真っ暗な部分しか見えなくなるんですね。世の中景気も悪いし、お金もない、仕事もない、僕はもう生きているのもいやだ、とか。
 その反面、反対側の半分は、明るいですよね。半分は常に明るい。必ず明るい部分があるんです。この両方で、ひとつの地球なんです。ものごとというのは、全てが暗いということも、全てが明るいということもなくて、地球は常に、昼と夜が半分ずつあって、そして、地球は常に回っているんですね。

 そして、白と黒のリンゴの写真。白黒ハッキリつけるのは、とても潔いような気がしますけれども、人間のこころって、そんなに白黒ハッキリかんたんにつけられるものじゃないんです。100%白だとか、100%黒だとか、そんなことを言うのは裁判所の仕事だけです。

 だから、無限のグレーの写真。人間のこころというのは、もっともっと、ハッキリしないものです。真っ黒い、暗い部分もあったり、非常に真っ白い、明るい部分もあったり、完璧な人間なんてのはいませんし、ダメ人間なんてのもいないんです。みんな、ダメなところもあったり、いいところもあったり、そういうところを含めた全てが、人間ひとりひとりだ、って思うんです。  完璧を目指さなくていい、と思います。そして、自分はまるでダメな人間だ、なんて思う必要も、全くないと思います。

 最後になります。
 「人生『70点』でいいじゃんね!」
 100点とることもない、0点じゃまずい、じゃあ、70点で行けたらいいじゃない!というのが、僕が患者さんによく言う言葉です。

かえるメンタルクリニック
精神科・神経科・心療内科